尼崎ラグビースクールでは、発達年代別に幼児・低学年(小 1 、小 2 )・中学年(小 3 、小 4 )・高学年(小 5 、小 6 )・中学と 4 つのカテゴリに分けて指導を行っています。全ての年代で共通するポイントは『ラグビーを楽しむこと』ですが、そのために各年代で必要な事柄をまとめました。
1. 幼児部
自我が芽生え、様々なことに興味を持ち、挑戦しようとする年代です。当スクールでは選手たちの好奇心を尊重し、ラグビーというツールを介して様々な動きを行ってもらうことを重視しています。楕円形のボールを追いかけ、投げ、蹴り、ラグビーの楽しさを感じながら少しずつタグラグビーのルールを覚えてもらえるよう、働きかけていきます。また、自ら考え「できた」という喜びをコーチは一緒に追求していきます。
この年代では勝利を目指すことよりも何か新しいことができるようになることが大切な目標になります。自分だけができるようになるのではなく、一緒に教え合って、できたときには共に喜べるような関係性を築くことをコーチがサポートします。
この年代は、人間の成長の中で唯一『神経系が著しく発達する』時期になります。この年代のうちにどれだけの運動を経験するかで、その後の運動能力に大きな差が生まれます。もちろん、いつから運動を始めても努力で補うことは十分に可能ですが、この時期は努力しなくても経験だけでどんどん神経が発達していきます。尼崎ラグビースクールでは、ラグビーに限らず、様々な身体的動作を経験させて、運動能力の基礎をしっかりと築くことに注力しています。
2. 低学年
人間の運動能力が最も発達するのはゴールデンエイジと呼ばれる 8 歳~ 12 歳の時期ですが、その直前の時期にあたるこの年代は、様々なものに興味が移り、集中力が持続しません。しかも幼児と違って運動能力も徐々に発達してきているため、動いていないと気が済まない状態になることも少なくありません。そのため、いわゆる反復練習ばかりではなく、時にはラグビーとは全く関係のないものをやってみたり等多種多様な練習メニューを用意して、刺激に飽きさせないことが最も大切になります。
ラグビーとはコミュニケーションが非常に大切になるスポーツであり、コミュニケーション能力が大きく発達するのがこの時期です。この時期にどれだけのコミュニケーションを経験するかが重要で、ただ声を掛け合ったり、ジェスチャーをしたりするだけでなく、自分がどうしてほしいのか伝え、相手がどうしてほしいのかを理解して動く能力を伸ばしていく必要があります。コーチはある課題に対し、どういうコミュニケーションをすれば相手に伝わってそれを解決できるのか試行錯誤することを促していきます。
ラグビーというのは、アタックは前に投げてはいけない、ディフェンスにはオフサイドがあり、前に出過ぎてはいけない等様々な制約が存在するスポーツです。この年代の選手にこれらを強要しても中々身につかないものですが、その枠の中でどんなアイデアでプレーするのかを根気よく問いかけ、考える機会を与えることで、問題を解決するための能力を伸ばしていきます。
01でも述べましたが、同じことを繰り返し行ういわゆるドリルの練習では、この世代の選手はすぐに飽きてしまいます。そこで、ルールがあって工夫をしないと勝てないゲーム形式の練習を主体に行い、そこで発見した課題を解決するためのスキルをドリルで身につけるという順序で練習を組み立てます。自らが発見した課題を克服するためならば、想像以上の集中力を発揮するのもまたこの年代の特徴です。
3. 中学年
自我の発達とともに、自らの力で衝動性を抑える能力も獲得していきます。ラグビーという競技を理解し、そのために必要な動作をどんどん吸収していきます。この年代の特徴として見たものをそのまま再現できる『即座の習得』を行うことが挙げられます。この即座の習得ができるかどうかは低学年期にどれだけ沢山の動作を行ったかが大きく影響します。そのため、尼崎ラグビースクールの指導ではラグビーという競技に特化した練習よりも運動能力の開発に重点を置いています。また、この時期にできるようになった動作は生涯忘れることなく行うことができると言われています。その選手のスポーツ活動における成功はこの年代でどんな指導を受けたかがとても重要になります。
日常において、人とぶつかり合うことはほぼありません。それどころか、他人が真っすぐこちらに迫ってくるという状況であっても稀です。しかしラグビーではそれが日常になります。タグラグビーから本格的なコンタクトラグビーへの過渡期にあたるこの時期では、他人に慣れるというところから段階的にコンタクトに慣れていきます。また、これぐらいの時期から成長の差が大きく表れてきます。だからこそ中学年では違いを認めて受け入れ、それに適応していく時期でもあります。
幼児期や低学年期に身につけた身体の動きと目や耳で取り入れた情報、思考や状況判断を複雑に組み合わせる(コーディネーション)練習を徐々に取り入れていきます。また、押し合いや組み相撲など対人を基礎としたコーディネーションも取り入れ、体幹を強くしていくことも大切です。
この時期から、少しずつリーダーシップを発揮する選手が出てきます。ですが、この時期のリーダーシップは暴走しがちで、強要や命令といった形で発現してしまうことがあります。どうコミュニケーションを取ればうまくチームが動くのか、また複数のリーダーシップが重なったとき、どう折り合いをつけるのか等のコミュニケーションを覚えていきます。また、リーダーシップを発揮するのが苦手な子も、積極的に発言ができるよう、発言しないとクリアできない課題を使うなどして自発的な発言を促すコーチングを行っていきます。
4. 高学年
ゴールデンエイジも半ばを過ぎ、様々な動作を習得し、状況判断の精度も上がってきます。選手として最初の充実期の到来です。よりラグビー競技としての専門性を向上させ、その一方で多種多様な動きができるようになります。どのようなスポーツでも活躍できる選手を育てることがスクールとしての第一目的ですが、選手たちは達成感を求め勝利を渇望するようになります。日々の練習の中で少しずつ達成感を得られるよう工夫し、自己肯定感を高めていくことがコーチとして大切な仕事になります。
一般的に 8 歳~ 15 歳ぐらいの子どもを比較したとき、その年齢の平均的な体格や運動能力から±3歳ぐらいの成長差が表れると言われており、その差が最大になるのがこの年代です。ある選手は 15 歳ぐらいの体格・運動能力を獲得している一方で、まだ 8 ~ 9 歳ぐらいの発達段階にある選手もいるのがこの年代の大きな特徴です。もちろんラグビーに階級はありませんので小さな選手が大きな選手に立ち向かっていくことも必要なことですが、それを補い合い、チームとし個性を見つけ出して武器に変えていくことで、小さな選手でも自信を持って活躍することができます。また、男女の差も徐々に表れてきますが、それも認め合い、同じゴールに向かって努力できる年代でもあります。ラグビーにとって最も大切な価値観のひとつである『尊重』を学びます。
この世代はパスやキック、ラン、タックルなど、ラグビーに必要な一通りのスキルを学び終えています。身につけたそれらのスキルを組み合わせ、どう試合で発揮するかを自ら考え、実行していく力を育てていきます。そのためには状況判断を伴うゲーム形式の練習を多く取り入れ、それに慣れていくことが重要です。また、コーチの言う通りに動くだけではなくコーチに意見をしたり、自ら助言を求めるなど、自分から成長を求めて動ける選手になれるよう、コーチは問いかけを増やし、考える機会を与え続けます。
本格的な筋力トレーニングはまだ必要ありませんが、簡単に倒れず、ケガをしにくい強い身体を作るために体幹トレーニングを取り入れることが有効です。また、トレーニングで得られた体幹をラグビーの動きに転化する練習も徐々に増やしていくことが必要になります。さらに、大人の身体に近づくにしたがって、何もしないと柔軟性が失われていくため積極的にストレッチを行うことも重要になります。
5. 中学部
身体が急激に成長していくため、神経がそれに追いつかず、それまでに習得した動きができなくなったり、スムーズにそれを繋げたりすることが難しくなります。また、理性の発達に伴って、それまで直感で理解していたことが理性で理解しなければならなくなり、新しい動作の習得も苦手になっていきます。しかし、大人の身体になるにつれて大きな力を発揮することができるようになるため、それまでに身につけた動きをより強く・より速く発展させていく練習が中心になります。それらを踏まえて、自分自身で、自分たちで考え練習を構築していくということも取り入れていきます。常に考える習慣をつけることで、時間がかかっても最終的には良いプレーヤーに育つよう促していきます。
選手として能力が充実してくると、次はチームとしての充実が課題になります。この時期から選手を戦術・戦略で縛りすぎるのは良くありませんが、少しずつ取り入れていくことも大切になります。リーダーシップを持つグループをうまくコントロールして、選手の個性を組み立て、最終的に勝利を目指して戦えるチームを作り上げていきます。一方でまだ身体的な発達に差がある時期でもありますので、勝利至上主義になりすぎず、すべての選手に平等に機会を与えることも考えていく必要があります。
身長が最も伸びる時期(Peak Height Velocity = PHVといいます)を過ぎると徐々にウェイトを使った筋力トレーニングを取り入れていくことが推奨されます。しかし、上述したように多様な発達段階の選手がいるため、スクールとしてウェイトトレーニングを推奨することはしません。ですが、神経を発達させ、瞬発力を向上させるプライオメトリクスというトレーニングや、自重を使った筋力トレーニング、選手同士で協力して行うような徒手負荷を使った体幹トレーニングなど、積極的に取り入れていきます。また、急激な成長に伴いケガが多い時期ですので、特に柔軟性や体幹部の強化には力を入れていきます。
ラグビーでいまだに根強い指導に、選手の特性に合わせて教えるスキルを絞り込むというのがあります。しかし、近代ラグビーではどのポジションの選手であっても様々な役割をこなすことが求められるため、すべてのスキルを学んだ上で選手自身がどのような選手になりたいのかをイメージして、それを選択していくことが重要です。コーチの独断と偏見で、プレーヤーの可能性を絞り込むことはこの時期のコーチングでは絶対に行いません
令和 4 年 3 月